中小企業者が行う様々な取り組みや設備投資に対して、国や地方自治体から補助が得られる補助金制度は上手く活用すると、自社の事業拡大や生産性向上にとても役立つ仕組みです。
ただ、補助金の原資は税金です。補助金制度の利用には様々なルールが設けられています。そのことを理解せずに安易に補助金申請を行うと、経営を窮地に陥れてしまう危険性もあります。
今回は、補助金申請を行う前に確認しておいた方がいいポイント、リスクとなる点を解説します。
補助金申請を検討されている方は、ぜひ一読してご理解いただきたいと思います。
補助金申請の前に確認したいポイント
1.補助金入金までの投資資金・運転資金は確保できるか?
補助金は原則、先に設備業者や外注先への支払いを行い、後から支払分の一部が返ってくる仕組みです。よって、投資資金は先に確保する必要があります。
採択されたらすぐにお金がもらえるわけではありません。補助金が入金されるまでには以下のような行程を経る必要があります。
補助金をもらうまでは長い道のりなのです。大型補助金だと1年がかりとなることも覚悟しないといけません。設備資金だけでなく、運転資金の確保も必要です。
自己資金で対応が難しい場合、金融機関にも計画を共有し、つなぎ融資を行ってもらうことも検討しましょう。なお、つなぎ融資の実行には「交付決定」まで進むことが条件になることが多いです。
- 補助金は後払い
- 大型補助金だと審査も多く、補助金入金まで1年以上かかることも
- 自己資金で足りなければ、金融機関に相談
2.事務処理体制は整っているか?
通常、補助金を活用する場合「申請書(事業計画書含む)」「交付申請書」「実績報告書」などの書類を作成し、提出する必要があります。
これらの書類作成や相談は外部コンサルタントなどに依頼することもできますが、納品書や請求書、支払依頼書などの証憑類はご自身(会社側)で収集・管理をする必要があります。また、事務局とのやり取りや確定検査(現地視察)の対応もご自身で行う必要があります。
最近の補助金はルールが多様化しており、特別枠などでは賃金台帳や従業員名簿など追加で書類が必要となることがあります。
このように補助金を使おうとすると事務処理が膨大になります。社内で誰が担当になるのか、決めておかないと対応しきれなくなる可能性があります。
特に従業員が少ない小規模事業者の方は、事務処理をどうするのか、検討しておかないと補助金には採択されたけど、事務処理に忙殺されて本業がおろそかになるという本末転倒な事態にもなりかねません。
外部の支援者の活用も視野にいれて、対応しましょう。
- 補助金を使うには多くの書類作成が必要
- 事務処理に忙殺されて本業がおろそかになる危険性も
- 事務処理をどのように行うか、事前に決めておきましょう
- 自社だけで難しければ、外部支援者の活用も検討する
3.使いたい経費は補助の対象になるか?
補助金ごとに「補助対象経費」が定められています。「補助対象経費」とは、その名のとおり、対象の補助金で補助の対象となる経費のことです。
「補助対象経費」以外の経費を使用しても、補助金は下りません。
「補助対象経費」は補助金ごとに異なります。例えば事業再構築補助金では建物の建設費は補助対象になりますが、ものづくり補助金や小規模事業者持続化補助金では不動産の取得費用は対象外です。
公募要領に「補助対象経費」は必ず記載されているので、まずは公募要領を確認し、自社で使用する予定の経費が補助対象に当てはまるか確認しましょう。
また、採択されたとしても、経費がすべて認められたわけではありません。事業計画を作成し、無事採択されたとしても、その後の交付申請で経費が対象外とされる可能性もあります。
申請前によく確認してから、申請を行うようにしましょう。
補助対象経費は補助金ごとに異なりますが、パソコンやスマホ、電話機、複合機、家具などの「汎用性が高い(≒他の用途でも使用し得るもの)」は基本的にどの補助金でも対象外になります。補助事業にパソコンが必須であったとしても、基本的には補助の対象とはなりません。
(※汎用性判断も補助金ごとに異なります。詳しくは補助金事務局にお問い合わせください)
- 何の経費が補助対象になるか、公募要領で確認する
- 採択されても、その後、経費が対象外とされることがある
- 汎用性の高い設備などは原則補助対象外
- 不明なことがあれば、補助金事務局に確認する
4.補助事業期限内に事業を終わらせることができるか?
補助金は事業実施期間が定められています。
事業再構築補助金では交付決定日から12ヶ月以内(採択発表日から14ヶ月以内)、ものづくり補助金(通常枠)では交付決定日から10か月以内(採択発表日から12ヶ月以内)、小規模事業者持続化補助金では締切回ごとに実施期限が定められています(第12回は2024年4月30日まで)。
この事業実施期間の間に、設備の発注、納品、検収、支払まですべて終わらせる必要があります。
また、チラシなど広告宣伝費に関しても、補助事業期間内に配布した物だけが対象となり、補助事業期間を過ぎてから配布したチラシや広告類はすべて補助対象外となります。
完成や納品までの納期が長い建物や設備の導入を検討している場合、実施期限までに納品と支払いを完了させられるか、業者とも打ち合わせてよく検討する必要があります。
採択・交付決定を受けても、補助事業実施期限までに納品や支払いが完了しない場合、補助対象外となってしまいます。
どうしても終わらない場合は「事故報告」という申請を行うことで、補助事業期間の延長を申請することができますが、天災等の事業者の責によらないやむを得ない事情がある場合しか、原則認められません。
業者都合で納期が間に合わなかったという理由だけでは、認められない可能性が高いので、申請前に納期についてはよく打合せをしておきましょう。
- 補助金には実施期限が設定されている
- 実施期限までに設備等の発注・納品・検収・支払いをすべて終わらせる必要がある
- 事業期間内に購入したが、期限までに使用しなかったものは補助対象外
- 事故報告を行えば期間延長できる可能性はあるが、要件は厳しい
5.補助金交付を受けることで発生する義務を理解しているか?
補助金交付を受けると、入金後も様々な義務が発生します。
以下に一例を挙げます。
- 補助金で購入した資産は原則、売却・廃棄・貸与・担保への差し入れ等は事務局の許可なくできない(財産処分の制限)
- 補助金で購入した資産は、申請書に記載した使用目的以外には使用できない(目的外使用の禁止)
- 補助金申請時の賃上げ目標が達成できない場合、補助金を一部返還しなければならない(ものづくり補助金の場合)
- 補助金交付後も毎年の年次報告を行う必要がある
- 補助金が交付された事業で収益が発生した場合、その一部を国庫へ返納しなくてはならない(収益納付)
このように補助金の交付を受けると、様々な制約を課せられることになります。
補助金は原資が税金であるため、適切な使用を求められます。このような制約を受けるのが嫌なのであれば、活用は見送った方がいいかもしれません。
短期での事業撤退も困難になりますので、そのあたりはよく検討するべきでしょう。
- 補助金交付を受けると様々な制約を課される
- 先行きが見通せない事業や、短期的に撤退する可能性がある場合、補助金活用は向かない
- 違反すると、補助金返還のリスクもある
まとめ
補助金は上手く活用できれば、新たな事業展開をスピーディーに行ったり、負担が少なく設備投資ができたりするなどのメリットがありますが、制約条件も多く、理解せずに申請を進めると、大きなトラブルを招きます。
特に資金の面については、失敗すると会社を潰すことにもつながりません。
安易な考えで申請を進めるのではなく、支援機関やアドバイザーに相談しながら、申請を進めていきましょう。